電磁波(コーラス)による電子加速
電磁イオンサイクロン波(EMIC)による電子消失
ダクト構造による消失領域の形成
 放射線帯の生成・消失過程に関する研究は盛んに行われているが、電磁波によって速い時間スケールの電子加速・消失過程が生じていることが近年明らかとなり、放射線帯は従来理解されている以上にダイナミックに変動していることが示されたた。私たちはこれまでに、数値グリーン関数法と呼ぶ手法を開発して、1秒以下の時間スケールで推移する物理過程を取り込みつつ、数時間におよぶ放射線帯変動をモデル化することに成功している。
 本研究では、この数値グリーン関数法を、電磁イオンサイクロトロン波動やダクト構造の影響も考慮に入れて拡張する。ダクト構造とは、周囲の磁気圏よりも電子密度が濃い領域を指す。磁気圏内を伝わっていく電磁波をダクト構造がとらえて、特定の磁力線に沿うようにガイドする役割を果たすことが、私たちのシミュレーション研究によって明らかとなっている(図2)。 私たちはこのダクト構造の性質をヒントとして、集められた電磁波によって強烈な電子消失領域が形成されるという仮説を提唱した。この仮説の観測的実証に取り組むとともに、放射線帯物理モデルにも取り入れて、高効率な放射線帯消失過程を究明する。

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装置の小型化・省電力化
世界初の降り込み電子・プラズマ密度同時観測で、ダクト構造と放射線帯消失過程との関連を明らかに
 ダクト構造と放射線帯消失過程との関連を調べるためには、放射線帯電子が降り込み消失する現場である地球大気上端の領域で、高いエネルギーの電子とプラズマ密度を同時に計測する必要がある。本研究では、広いエネルギー帯域の電子スペクトルを計測する電子分析器とプラズマ密度計測器を、数kg級の超小型衛星に搭載できるまでに小型化・省電力化する。
 降り込み電子を計測する電子分析器は、私たちが開発して超小型衛星への搭載実績のある観測装置をもとに、あらせ衛星に搭載されている電子計測器(図3)でも用いられたアバランシェフォトダイオードを用いて、広いエネルギー帯域が計測できるように拡張することにより開発する。降り込み電子の量がエネルギーによってどのように変化するかを調べることで、降り込んでくる電子のエネルギーに反映される電磁波の特徴をとらえることが可能となる。
 プラズマ密度計測器は、電離圏観測ロケット実験等でのプラズマ密度の精密計測で実績のある装置をもとに、従来は1m必要であったプローブ長を短縮するなど小型化を図ることにより開発する。
 開発した計測器を超小型衛星に搭載し打ち上げることにより、世界初の降り込み電子・プラズマ密度同時観測を実現する。これにより、ダクト構造と放射線帯消失過程との関連を観測的に明らかとする。

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太陽活動上昇・極大期(2024-2025年頃)の活動的な放射線帯の観測研究
放射線帯モデルの木星への拡張
 放射線帯を探査するあらせ衛星をはじめとする科学衛星と超小型衛星との連携観測により、放射線帯が高効率に消失する過程を観測的に実証する。本研究計画の実施期間は太陽活動上昇・極大期にあたり、活動的な放射線帯を観測できる。
 さらに、太陽系最大の磁気圏を有する木星での観測データの解析から、木星における速い放射線帯変動とダクト構造の関連について究明する。地球よりも空間スケールの大きな木星では、相対論的に高いエネルギーを持つイオンが電磁波により作り出されている可能性があり、観測データ解析と計算機シミュレーションにより検証する。

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プラズマ物理の基礎過程を明らかにし、
放射線帯コントロール技術の学理を構築する
能動実験の理論的基盤を獲得することで、
人類の宇宙利用と有人宇宙探査の促進に貢献する
 放射線帯電子はそのエネルギーの高さから、地球周辺を飛翔する宇宙機の障害や宇宙飛行士の被曝要因となることが知られています。放射線帯の能動的制御方法の模索も進められており、磁気圏での人工的な電磁波放射実験などが行われています。
 また、近年明らかとなった電磁波による高効率な放射線帯消失機構の理解を深めることは、プラズマ物理の基礎過程を明らかとする学術的に重要な成果となることに加えて、放射線帯コントロール技術の学理を構築することに繋がります。本研究により、能動実験の理論的基盤を獲得することで、人類の宇宙利用と有人宇宙探査の促進に貢献します。

以上の取り組みにより、
放射線帯が急速に消失する現象の基礎的な物理機構を明らかとし、さらにその結果に基づいた考察により、放射線帯を制御するための指針を与える。