令和7年度第9回STPPセミナー
発表者:加藤 雄人 (スタッフ)
発表タイトル:
日)放射線帯からの相対論的電子降下現象の低軌道高度における観測結果
英)Relativistic electron precipitation from the radiation belt observed at low earth orbit
発表概要:
地球の周りには「放射線帯」と呼ばれる、相対論的に高いエネルギーをもつ電子や陽子が分布する領域が存在しています。これらの高エネルギー粒子は人工衛星の異常を引き起こすことが知られ、宇宙天気研究において重要な研究対象です。近年では、数時間〜数分という短い時間スケールで電子が急減する現象が注目されており、その仕組みを明らかにするための観測・理論・シミュレーション研究が進められています。放射線帯の挙動は、地球だけでなく他の惑星にも共通する物理現象であり、宇宙天気予報や惑星探査にも関わる重要な研究テーマです。
放射線帯を消失させる過程において、磁気圏で自然発生する電磁波(ホイッスラーモード波動や電磁イオンサイクロトロン波動)が重要な役割を果たすと考えられています。近年では磁力線の曲率が粒子の軌道を変化させる効果も注目されています。本発表では、低高度衛星と国際宇宙ステーションに搭載された装置による観測結果に基づいて、高エネルギー電子がどのような物理過程を経て地球の大気へと降り込むのかを考察しました。また、電磁波による効果と磁力線の曲率による効果がそれぞれどの程度寄与しているかについての研究結果を報告し、開発中の超小型衛星による観測研究への展望についても議論しました。
発表者:熊本 篤志 (スタッフ)
発表タイトル:
日)次世代小天体サンプルリターン(NGSR)ミッションバイスタティックレーダ用アンテナの設計
英)Design of the antenna for bistatic radar in the Next Generation small-body Sample Return (NGSR) mission
発表概要:
この研究発表では、次世代小天体サンプルリターン(NGSR)ミッションのバイスタティックレーダ用アンテナの設計について現況が報告されました。NGSRは、太陽系形成時から変成を受けていない物質を、彗星核の地下1mから採取することを目的とした探査計画で、JAXA/ISASの中型ミッション選定への提案を目指して検討が進められています。彗星核の内部構造についても、特に「ラブルパイル」天体か「ペブルパイル」天体かを区別することが求められています。ラブルパイル天体は一旦親天体が形成された後、大規模破壊、再集積を経て形成されるのに対し、ペブルパイル天体は、ダストや小石の静かな集積によって形成されることから、サンプルを取得する彗星核の形成過程を推定する重要な手がかりとなります。NGSRミッションでは異なる地点間で送受信を行うバイスタティックレーダーを使用して彗星核内部の二次元構造を推定することが検討されています。3mの空間分解能で内部構造推定を行うためには、40MHzの帯域幅で送受信を行う必要があることから、ボウタイ型アンテナの利用が想定されています。また、アンテナの展開・支持機構の成立性や探査機の運用性の観点から、最適なアンテナ支持マスト長の検討が、数値解析・縮小模型を用いた実測をもとに進められています。