地球の極域には宇宙空間からエネルギーの高い電子が降り込み、大気と衝突することによりオーロラや電離圏電子密度の変動などを引き起こしています。2023年8月2日付で地球物理学分野の専門誌Earth, Planets and Spaceに掲載された論文Katoh et al. (2023)は、高度400km以下の超高層大気での電子と大気との衝突過程について、地球に近づくほど強まる地磁気が電子の運動に及ぼす影響を精密に取り入れて、大気と衝突しながら降り込んでくる電子の運動を解き進めました。どの高度でどの程度の頻度の衝突が起きるかを詳細に計算した結果、降り込んできた電子を地磁気が跳ね返す効果が従来の予想以上に顕著であることを明らかにしました。この跳ね返りの効果は、大気に入射する角度が大きな電子ほど強くなり、また、電子のエネルギーが数十万電子ボルトを超えると特に顕著になることも分かりました。
宇宙放射線の中でも相対論的なエネルギーを持つ電子は「キラー電子」とも呼ばれ、宇宙空間では衛星の障害を引き起こし、宇宙飛行士の被曝の要因ともなることが知られています。太陽で発生するフレアの影響により、キラー電子の量が増減することが明らかとなっています。キラー電子の消失過程としては、磁力線に沿って地球の極域に降り込み大気と衝突することによる消失が主要因とされています。本研究で明らかにした地磁気の役割を考慮することにより、キラー電子の降り込みによる電離圏の電子密度変動の正確な理解が一層進むことが期待されます。