地球周辺の宇宙空間には、数10keVから数MeVに及ぶ高エネルギー電子が存在しており、これらの電子は地磁気が作る磁力線に沿って地球大気に降り込んできます。その結果、電子は極域大気の原子や分子との衝突を繰り返し、オーロラの発光や大気電離など、さまざまな大気変動をもたらします。2021年12月16日、低高度極軌道衛星「ELFIN」と、ノルウェー・トロムソに設置された大型大気レーダー「EISCATレーダー」によって、それぞれ高度約400 kmに存在する高エネルギー電子と、その降下によって増大したと考えられる高度85 km以下の大気電子密度を同時に観測することに成功しました。ELFINでは運動エネルギーとピッチ角ごとに分解された高エネルギー電子の分布が観測されました。2025年10月20日付で地球物理学分野の専門誌Annales Geophysicaeに掲載された論文Tanaka et al. (2025)は、このデータをもとに数値シミュレーションを行い、地磁気による磁気ミラー力が、高度80 kmにおける大気電子密度を約40%も減少させる効果を持つことを明らかにしました。さらに、EISCATレーダーによる大気電子密度の観測結果は、磁気ミラー力ありのシミュレーション結果に近い値を示しており、この効果を裏付けるものでした。
本研究では、高度80 kmにおける電子密度の定量評価に焦点を当てましたが、実際には、高エネルギー電子の降り込み現象はさらに低い高度でも大気電離を引き起こすことが知られています。そのようなときに、磁気ミラー力によって電子の軌道が変化する効果が、オーロラ発光や大気中の化学反応にどのような影響を及ぼすかについて、複数の観測例と数値シミュレーションとを組み合わせた研究が進むことが今後期待されます。これらの高エネルギー電子の降り込み現象の影響は、電波が電離大気に吸収されることで電波通信の障害を引き起こすなど、私たちの生活に関わることが指摘されており、その影響の大きさをより正確に評価することに繋がります。
・総合研究大学院大学プレスリリース
・国立極地研究所プレスリリース
・東北大学プレスリリース
・理学研究科プレスリリース
・磁場が地球に降り込む宇宙放射線を跳ね返す 〜高エネルギー電子から大気を護る地磁気の役割を解明〜

