磁化惑星の磁気圏に存在するプラズマの沿磁力線分布を決定する理論モデルの提案

地球物理学の専門誌Journal of Geophysical Research: Space Physicsで、以下のタイトルの論文を発表しました。
タイトル: Plasma Distribution Solver: A Model for Field-Aligned Plasma Profiles Based on Spatial Variation of Velocity Distribution Functions
DOI: 10.1029/2023JA031660

磁化惑星の磁気圏内におけるプラズマの分布は、プラズマ源からのプラズマ生成過程(例: 大気流出、火山性衛星)や、プラズマ粒子に作用する力(例: 重力、遠心力)のつり合いによるプラズマの輸送過程、そして磁気圏内でのプラズマ損失過程(例: 粒子の大気突入)によって決定されます。
このプラズマ分布は、Alfvén波などのプラズマ波動の特性を決定し、波動粒子相互作用を通じて、プラズマ粒子の加速に影響を与えます。
そのため、磁気圏の研究において、この分布の理解が不可欠です。

この論文で紹介する「Plasma Distribution Solver」という理論モデルは、磁気圏内のプラズマの密度や圧力の沿磁力線分布を算出します。
このモデルは、磁力線に沿って運動する粒子のエネルギー保存則と第一断熱不変量の保存から決定される粒子のAccessibilityを考慮して、速度分布関数の沿磁力線空間変化と、速度分布関数の積分値である数密度や圧力の空間変化を求めるモデルです。
これらの分布は、シミュレーションの境界である電離圏と磁気圏の条件を厳密に満たします。

私たちは、このモデルを木星とその衛星イオの系に適用しました。
イオは火山活動が盛んであり、木星の磁気圏内の主要なプラズマ供給源として知られています。
イオから放出されたイオンは、イオンピックアップ過程を通して、温度の異方性を持つと言われています。
このことを踏まえ、イオから放出されたイオンの温度に異方性を与える場合と与えない場合それぞれで結果を算出し、比較を行いました。
結果として、温度異方性を与えた場合、磁力線の中-高緯度帯で、特定のイオン、特に酸素イオンの数密度が、異方性を与えない場合に比べて非常に小さくなることがわかりました。
このことは、プラズマ波動の特性にも影響を及ぼします。

私たちは、Plasma Distribution Solverを、磁力線に沿ったプラズマ分布や関連する物理量を計算する有用なツールとして位置付けています。
今後の研究では、このモデルを利用して、磁気圏における電子の加速過程の詳細を明らかにしていきます。