探査機Junoのデータを用いた木星磁気圏でのEMIC波動の観測
M1 野口智史
木星の磁気圏は、地球と比較して磁場の強さの指標である磁気モーメントが2万倍であるなど、強力で巨大な磁気圏です。そのダイナミクスは、太陽風との相互作用に強く影響を受ける地球とは異なり、惑星本体の10時間に1回という高速な自転と、衛星イオから供給される重イオンとの相互作用に支配されています。この環境におけるプラズマ波動は、木星磁気圏でのエネルギー輸送や粒子加速を理解する上で極めて重要な研究対象です。その中で、特に電磁イオンサイクロトロン波動(EMIC波動)というプラズマ波動は、地球磁気圏との違いや共通点を語るうえで非常に興味深いものとなっています。
EMIC波動の励起過程として、高エネルギー粒子の温度が磁力線垂直方向に卓越する温度異方性が挙げられます。木星磁気圏においては異方性を生成する主要なメカニズムとして2つの可能性があり、ひとつは衛星が供給したプラズマによるもので、地球では見られない生成過程です。もうひとつは高エネルギー粒子が磁気圏の動径方向内側に輸送されるインジェクション現象によるもので、これは地球でも観測事例が多い生成過程です。
現在、木星磁気圏では前者の生成過程で発生したEMIC波は数例観測されていますが、後者の生成過程によるものは明確な観測事例がない状況です。私は現在、後者のインジェクション現象に由来するEMIC波の観測事例を探査機Junoのデータから探し、木星磁気圏、並びに地球磁気圏のダイナミクスの理解を深めることを目指しています。

木星の磁気圏の概略図。
出典:Bagenal et al., 2004